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エッジコンピューティングとクラウドがつくりだす新しい世界

エッジコンピューティングとクラウドがつくりだす新しい世界

最近、注目を集めているキーワード「エッジコンピューティング」。
エッジコンピューティングをひとことで言えば「データの生成元、または、その近く(エッジ環境)でデータ処理を容易にするソリューション」と言えるでしょう。
当稿ではエッジコンピューティングが何故いま注目されているのか、その背景と導入メリット、最新動向、そして今後のコンピューティングの世界での役割等を紹介していきます。
またクラウドとエッジコンピューティングの関係についても、あわせて考察していきます。

1. エッジコンピューティングへの期待は絶大!

エッジコンピューティングへの期待は絶大!

現在、世界中でエッジコンピューティングへの注目や期待が語られています。その象徴的な出来事として、マイクロソフト・ナデラCEOが「コンピューティングの未来はエッジにある」と講演したことがあげられます。この講演は2019年、米ワシントンで開催されたカンファレンス「Microsoft Government Laders Summit」でおこなわれました。たしかに、コンピューティングの来るべき未来は「ローカルかクラウドか」というように単純に二分できるものではありません。ナデラCEOの発言も、未来のコンピューティングの全体像を見据えたうえで、エッジコンピューティングへの可能性について言及したということでしょう。講演からのナデラCEOの発言を引用します。
『エッジコンピューティングのコンピューティング全般に与える影響を真に理解するめには2030年までにインターネットには500億のデバイスが接続されることになると予測したレポートを吟味する必要がある。これは驚くべき数字だ。現在我々のWindowsマシンは10億台ほどある。スマートフォンが数十億台あるだろう。これが2030年には500億台になっているだろうというのだ。』
ナデラCEOの発言の核心は、コンピューティングの来るべき未来はエッジコンピューティングとクラウドコンピューティングの両輪の世界になる、ということです。果たして未来はそのような方向に進むのでしょうか。ひとつひとつ検証していきます。

2. エッジコンピューティングがもたらすメリット

まずエッジコンピューティングが注目されている背景とメリットについて考察します。現在はクラウドでさまざまな処理をおこなうことが主流となっており、クラウドは潤沢なコンピューティングパワーや拡張性の高いリソースがあり、リソースを多く利用する処理に向いています。
一方、これからのIoT時代では、あらゆるモノがネットワークに繋がり、日々膨大なデータを生成していきます。たとえば、工場の機器や車のセンサー等から発生するデータは膨大な量になります。モノから発生するデータすべてをクラウド側に集約していたのでは、クラウド側のリソースはいくらあっても追いつきません。これが前述のナデラCEOの言うところの『インターネットに500億のデバイスが接続される未来』であり、エッジコンピューティングが注目を集めている背景です。

エッジコンピューティングは分散型アーキテクチャを実現

エッジコンピューティングは、モノで発生する膨大なデータをクラウドですべて処理するのではなく、生成元であるエッジ上で処理します。つまりエッジコンピューティングは従来のクラウド上での一元処理から、全体構造を分散型アーキテクチャにシフトさせる訳です。分散型アーキテクチャの優位性、つまりエッジ上で処理を行う利点は主に下記の3つとなります。

リアルタイム性の確保

機器からクラウドへデータを送信してクラウドで処理した結果を再び機器へ返す場合、データ転送に往復の時間がかかり、機器側での判断が遅延
エッジ側でデータ処理をおこなえば、ネットワークを介した応答の時間がなくなるため、よりリアルタイムな判断が可能

セキュリティリスクの低減

工場の機器等のセンサーのデータを外部に出したくない要件があった場合、そのままクラウドへデータを送信することが困難
エッジ上でデータを加工して結果のみをクラウドへ送信することで、データを秘匿しながらも工場の機器全体の稼働状況収集が可能

通信量の削減

機器側で生成した膨大データをすべてクラウド側に送信した場合、通信コストが伴うため無制限に全てのデータをクラウドに送信することは不可能
エッジ上でデータを整形・変換して必要なデータのみに集約したり、異常時のアラーム等といった必要なデータのみを送信したりすることでデータ量を削減することが可能

上記3点以外にも、BCP(事業継続計画)上でのメリット、EUの一般データ保護規則(GDPR)と親和性の高いシステム構築に活用することなどが考えられます。このようにエッジコンピューティングを通して、求められる判断のリアルタイム性や、セキュリティ要件などによって、適切な機能配置が実現することが可能となる訳です。ポイントとしてはクラウドのみに機能が偏ったり、エッジヘビーのようにエッジ側に機能が偏ったりするのではなく、適切な機能配置となるようにアーキテクチャを構成することが重要になります。

今後、活性化する「第二のシフト」

近年のコンピューティングのワークロードを俯瞰して見るならば、まず第一のシフトとして「オンプレミスのデータセンターからクラウドへのシフト」がありました。そして、今おきようとしている第二のシフトが「クラウドのデータセンターから処理対象のエッジロケーションへのシフト」と言えるでしょう。

3. IoT分野で急成長するエッジコンピューティング

これまで、見てきたようにエッジコンピューティングはIoTの世界でキープレイヤーとなりつつあります。IoTインフラ市場におけるエッジコンピューティングのシェア等をチェックしてみましょう(IDC Japan調査/2020年)。
2019年の日本国内IoTインフラ市場の総支出額は、前年比16.2%増の998億円になる見込み。2018~2023年の年間平均成長率(CAGR)は15.8%で、2023年の支出額は1788億円になるという予測されています。「IoTコアインフラ市場」と「IoTエッジインフラ市場」の2つのセグメントに分けた市場予測が下記です。

2019年の日本国内IoTコアインフラ市場

支出額は、前年比12.3%増の666億円
2018~2023年のCAGRは12.0%で、2023年の支出額は1046億円

2019年の日本国内IoTエッジインフラ市場

支出額は、前年比25.1%増の331億円
2018~2023年のCAGRは22.9%で、2023年の支出額は742億円

上記から成長率が高いのは、IoTエッジインフラ市場と言えます。レイテンシー(待機時間)やセキュリティの観点からIoTエッジ層でのデータ分析処理を志向する企業が確実に増えていくと考えられます。今後のIoTの世界では、自社の優位性構築のための重要技術のひとつがエッジコンピューティングになることは間違いないでしょう。

4. キーワードは“リアルタイム”

現在のエッジコンピューティングで重要なキーワードが「リアルタイム」です。かつてののエッジコンピューティングは、エッジ側でIoTデバイスから生成される膨大なデータをフィルタリングし、クラウド側に適切に渡すことに重点がありました。IoTの膨大なデータを処理するのはあくまでも、リソースを安価かつ潤沢に用意できるパブリッククラウドの役目だったのです。

IoTデバイスの近くで大量データを高速に処理する必要性

IoTデバイスの近くで大量データを高速に処理する必要性

従来の「データ処理はパブリッククラウドの役目」に変化が生じたのは、ここにリアルタイムというキーワードが入ってきたからです。つまりリアルタイムを求めると、クラウドでは処理が間に合わなくなり、なるべくIoTデバイスの近くでデータを高速かつ大量に処理をする必要が生れた訳です。当初のエッジコンピューティングの装置は、傾向としては数多くのセンサーなどを接続するネットワーク機能に重点が置かれ、あまり複雑で重たい処理をするものではありませんでした。つまり当時のエッジコンピューティングのイメージは、ネットワーク機器のような専用ハードウェアで、たとえば「IoTゲートウェイ装置」等と呼ばれ、ハードウェアベンダーから提供されことが主でした。それが最近はIoTゲートウェイに機械学習のアルゴリズムなどを搭載することで、大量に生成されるIoTデータを高速に処理できる強力なサーバがエッジ側で使われるようになっています。

機械学習アルゴリズムなどは、クラウド側で生成される

エッジ側でデータを高速処理するアルゴリズムは現状においては通常クラウド側で生成されることになります。下記に流れをまとめてみます。

  • IoTデバイス生成データはリアルタイム処理とは別個に適宜クラウドへ送信
  • クラウドのビッグデータ環境等において、分析がなされアルゴリズムを作成
  • そのアルゴリズムを随時エッジ側に実装

エッジコンピューティングとクラウドの不可分な関係

つまり多くのIoTデバイスとエッジコンピューティングは、リアルタイムがキーワードとなりエッジ側に処理がシフトしても、クラウドとは不可分な関係性にあるのです。ニュース記事などで「クラウドからエッジコンピューティングへ」といったような見出しを見ると、あたかも「エッジコンピューティングがクラウドにとって代わる」ような錯覚を受けることもありますが、これは完全な誤解と言えるでしょう。
未来のコンピューティングの世界が、クラウドとエッジコンピューティングの両輪になることはまず間違いないと考えられます。つまりクラウドとエッジコンピューティングの関係を最適化して最大活用することがポイントとなります。そのための最も基本的なことは「クラウドは何を担当するのか」「エッジコンピューティングは何を担当するのか」という概念整理です。上記ではデータ処理がクラウドからエッジコンピューティングへシフトする流れを見てきました。しかし、エッジコンピューティングの可能性はデータの処理だけには留まりません。さらに、エッジ側で知的な判断を伴うケースも増えていくと予想されます。

5. 注目を集めるエッジAI

エッジコンピューティングの最新動向が、エッジデバイスに人工知能(AI)の学習モデルを実装し、異常判定を下したり、予兆保全を行ったりする「エッジAI」です。一例としてNTTデータではエッジ上でインテリジェントな判断できる「AI推論処理」を実行できるエッジAIエンジンを開発しています。

「学習(訓練)処理」と「推論処理」

ここで簡単に「推論処理」について説明します。人工知能の処理には「学習(訓練)」と「推論」があります。「学習(訓練)処理」は、ビッグデータなど学習用のデータを使ってニューラルネットワークを訓練し、AIモデルを生成します。できあがったモデルに実際のデータを与えてさまざまな処理(画像の認識や音声認識、自然言語処理)を実施するのが「推論処理」です。学習処理には膨大な計算が必要になりますが、推論処理は学習処理と比較した場合、それほどの計算は必要ありません。このようにAI処理用のチップは、学習用と推論用では要求されるスペックが違うため、今後も2つの流れとして発展していくと考えられます。学習用のチップは主にクラウドのセンター側で活用され、推論用のチップはIoTデバイスやモバイルデバイスに組み込むために省電力化・小型化が進むと言われています。

多様な分野で期待されるエッジAI

エッジAIが注目されている代表的な分野は自動運転車でしょう。しかしエッジAIはコンシューマー分野から産業分野まで幅広い分野での活用が期待されています。将来的にはレイテンシー(待機時間)やデータプライバシー、低消費電力、低コストを考慮する必要のあるアプリケーションは、エッジAI側に移行することが増えていくと考えられます。

「大局的分析・判断」と「局所的分析・判断」の棲み分け

将来的にはエッジ環境で学習モデル生成から処理までが完結できるソリューションも期待されています。しかし現時点でのスタンダードな手法は、クラウド側とエッジ側で双方のメリットを生かし、それぞれ役割を分担して、組み合わせて利用するアプローチです。それが前述したクラウド側でデータを大量に蓄積し、GPUのマシンパワーによって学習済みモデルを構築。そして、そのモデルをエッジ側のデバイスに実装することで、リアルタイムに流れる現場のデータから、予測や判定を行うという方法です。つまり「大局的分析・判断」は従来通りクラウド側が担当し、「局所的分析・判断」をエッジ側にシフトするという構図になると考えられます。

6. まとめ

エッジコンピューティングはこれから一層、本格化していきます。米IT調査会社Gartnerでは製品・サービスのライフサイクルを「黎明期」から「生産性の安定期」までの5つのステージに分類していまが、そのなかでエッジコンピューティングを現状、第2ステージの「<過度な期待>のピーク期」としています。エッジコンピューティングを利用したビジネスモデルの検討も今後、非機能要件を含めてより深めることが必要ですし、技術的には「マイクロデータセンター(エッジデータセンター)」のセキュリティを含めた管理等も課題となります。
しかし、いずれにしろクラウドとエッジコンピューティングを共存させ、最適配置することがビジネスの決め手になる時代は、もうそこまで来ていると考えられます。

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